ルナ太郎の腹筋崩壊ブログ

私は…仮面ライダーゼロワンの気になった所を大人げなく殴り書くのが仕事だから!

説明台詞は制作の苦労を写す鏡なのか(仮面ライダーゼロワン第16話「コレがZAIA(ザイア)の夜明け」)

16話、個人的に予想通り面白いとは言い難い展開だったのですが、随所に「手詰まりなりになんとかしよう」という制作の苦労が見えたのでそこを触れていきたいと思います。

 

バルカンが使用していたアサルトウルフの力を借りて、アサルトシャイニングホッパーへと奇跡の変身を遂げたゼロワン。

滅亡迅雷.netの最後の砦となる迅との戦いが幕を開けた。

迅はなぜ、“人類を滅ぼす”という使命を持つようになったのか?迅に破壊されかけたイズのその後は?

そして、ゼロワンVS迅の戦いの行方は―――?

其々の終わりと始まりが交錯する!

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とある脚本家さんがラジオで語っていたことなのですが、ライターの書いたシナリオに監督やプロデューサーが色々と口出ししたがためにプロットがこんがらがり、1つの作品に納めるには無理矢理になってしまったり、予定していた尺通りに展開出来ないので事の順番を入れ替えた結果、何がしたかったのか分からない作品になることがあるそうです。

ご自身も映画オタクであるため、「人様の映像作品にある説明台詞から制作の試行錯誤を感じると映画の違う一面が見えてきて趣深い」というお話もしていらっしゃって。

説明台詞というのは、必要な尺の納めなければいけない事柄や設定を無理やり押し込む脚本家の腕の見せ所にもなるものであり、スマートに入れ込めれば“制作の技”と言えるでしょうし、逆に唐突に感じられてしまえば“苦肉の策”であった見えてしまうものだとも仰られていました。

その苦肉の策感が見る側の はなじらむ要因となり、負の意味で「説明台詞」が忌み嫌われていってしまっていると。

 

コンテンツの尺的な条件や上からの提案によって苦労をしてしまう状況は、30分の特撮番組にも当てはまることではないでしょうか。

例えば、玩具の発売があるので変身アイテムを登場させなければならないというスポンサーやプロデューサーの思い描いた展開を「この回までやっておいてほしい」という意向に応えなければならないなんてことはあると思います。

好き勝手やらせてもらえる場合もあると思いますが、そういった条件下でどこまで盛り上がりを持たせて面白くするかという側面が脚本家の役割にはありますよね。

となれば、脚本家に与えられた条件をこなすためにも説明台詞というのは必要不可欠な手法になってくるのです。

そんなワケで、第16話ではどのような説明台詞が入っていたか挙げていきながら、作り手にはどんな思惑があったかを考えていきたいと思います。

 

・イズによる状況確認(あらすじ)

・迅の犯行動機

・垓の策略

・役員会&或人の会見

・垓のTOB

 

この辺りが私が考える中で思い付くところでしょうか。

「それは説明台詞でないのでは?」と思われる項目もあるかと思いますが、そう思わせないのも手法なので入れていきます。

 

・イズによる状況確認(あらすじ)

普段、山寺宏一氏がアバンを、最近では あらすじを担当したものが導入にありましたが、この語り部を介した状況説明もフィクションであるからこそ成立する説明台詞になります。

台詞ではありませんが、スターウォーズの冒頭のジャーン!のBGMをバックに流れるテロップも、言ってみれば台詞に起こすには不自然で長ったらしくなってしまうがゆえにいっそ語り部的なものに説明させてしまえという立派な手法なのです。

今回は普段、山寺氏が入れ込むところをイズに敢えてやらせることで特別な“最終決戦”感を演出しつつ、「ゼアにはイズの意識が残っている」ことの説明を端的に済ませていました。

本来ならスマートな演出と言いたいところですが、ゼロワン自体が元々説明の足りない節もあったりするので、逆にいきなりゼアにイズの意識があってもそこまで不自然に感じないような気もしますが。

 

・迅の犯行動機

・垓の策略

この辺はいつもの雑な感じで、一応言わせておくことで、何の目的もなく闇雲に犯行/計画に及んだことはないという説明ですね。

最近のテレビは余白として語らないよりもしっかりと説明をつけてしまうことが好まれる傾向もありますし、何の大義名分も言わずに撃破されてしまうとモヤモヤする視聴者も出て来かねないので、「あぁ、人間が地球に要らないと思ってたのね」だったり、「迅が言っていたのは垓が意図的にラーニングさせた悪意なのね」と納得してもらうためのものとして機能はしています。

(大義名分がそのことで迅の行動理念が初回から大分ブレるような気もしますが、それは説明台詞と関係ないのでまたいつか言及を)

 

・役員会&或人の会見

これについてはあらすじ同様、説明台詞と言い難いように感じますが、会社の情勢についての説明とヒューマギアの暴走への対策をしっかり行っていたことへの説明となっています。

唐突に第1話以来となるであろう役員が召集され、或人社長の是非を議題にしたわけですが、今まで職業紹介とヒューマギアのドラマに全振りした分、福添チーム以外の社員に全くスポットを当たってないことから生じる、会社内の或人への支持に対する疑問の払拭させるための説明台詞的役割になっていると言えます。

ここをイズの一言や福添チームとのやり取りで済ませてしまわないところもゼロワンの割には丁寧にやっているなと思いました(笑)

次回からザイア編に突入するようなので、描くつもりのない内部分裂の危惧を視聴者にさせないためにどうしても入れておかなければならなかったのかもしれません。

記者会見での暴走の対策を行っていたという応対も同じように、「そもそもザイアとの対決以前にセキュリティがダメじゃん」というツッコミを視聴者に入れさせないためなのかも。

逆に今になってセキュリティの話題に触れるのは、それに説明をつけてしまうと戦わずにセキュリティ強化に尽力すべきだという見方が増えてしまうとも考えられますし。

 

・垓のTOB

これは分かりやすく、無知なキャラクター(或人)に疑問を持たせることで説明台詞に持っていく書き手の型としてよくある手法(らしい)でした。

ただ、あの説明台詞がTOBを説明しきれていたかというとそうではなくて、違和感を強くさせないために端的に済ませたと思います。

というのも、TOBというのはただ株を沢山買って会社を買収する宣言することではなくて、投資家から持ち株を売ってもらう、「この会社を買収しようと思うので私に貴方の株を売ってください」という宣言なのです。

次回のザイア編から何が起きるかは予告の生け花対決ぐらいしか存じ上げませんが、その対決はおそらく投資家や株主に対してどちらの企業がAIを有意義に取り扱えるかという争点が故のことなのでしょう。

その前振りとして、ただの買い付けではないことを示さなければならず、しかし、ダラダラと株用語を難しく並べてはならないという選択からあの回りくどいとも思える簡潔な説明台詞が生まれたのだと思います。

その手の説明を子供向け番組で、しかもあの尺でやろうなんてことが無茶なんですけどね。

 

 

それらの説明台詞から察せられる第16話にあった作り手の条件を考えていくと、

 

・15話ラストにシャイニングアサルトホッパーの登場、活躍は第16話に

・17話でザイア編に突入させるため、平和を取り戻してから垓のTOB宣言まで持っていく

 

というのはマストであったように思います。

たった2つでもこの1つずつだけで1話分使えそうな展開を30分の枠に納めきるにはなかなか大変な項目ですよね。

 

・15話ラストにシャイニングアサルトホッパーの登場、活躍は第16話に

おそらくこの必須条件のために、第15話は急ぎ足でアサルトグリップを或人が手にするまで進め、変身だけは済ませて最終決戦を跨がねばならなかったと考えられますし、週を跨いで生まれた間延びを防ぐためイズにあらすじを言わせることで緊張感の吹き返しを図ったのでしょう。

説明台詞による工夫こそ見られましたが、シャイニングアサルトホッパーに対する物語上のロジックは貧相で、シャインシステムが、デザイナーが関わっていなそうな単純な出来合いっぽいCGの無線遠隔装備であったり、システム名と今までアテにしなかった“社員”をかけた2度目の“社員”と“シャイン”のギャグ、何故かアサルトグリップまで見越していたゼアによる都合の良い起死回生策だったりとネタの枯渇、もしくは残り2/3の物語のための温存を窺わせるものでした。

新フォームの登場と活躍に週を跨ぐ展開はシャイニングホッパーでやっており、新フォームの本領発揮に存在の危機にあるイズが一枚噛むというのも同じくワズ回でやってしまっているので手詰まりなのは仕方なく、説明台詞の手数で違いをつけるしかなかったのではないかと邪推したくなります。

話は前後してしまいますが、チーム福添以外の血の通った社員を出さなかった分、システムに関与できる人間のエンジニアは登場していませんから、当然、新フォームについてはイズを介さないと何も語れないのが多彩なフォームを抱えている現時点においてゼロワンの大きな弱点だと思います*1

この弱点を抱えたまま、イズに長々とシャインシステムの概要を説明させるぐらいなら、ガンダムでありがちなファンネルっぽいのをそれらしく見せて「性能は推して知るべし」と言わんばかりに視聴者に理解を任せる演出にした、といったところでしょうか。

そんな説明に尺を割くぐらいなら、或人が迅に向けた「もしかしたら分かり合えたかも」と理解を見せるような伏線的発言に割り当てて、或人と滅亡迅雷.netに一区切りつけるドラマにしたんだと思います。

逆に説明台詞をつけないというやり方ですね。

 

・17話でザイア編に突入させるため、平和を取り戻してから垓のTOB宣言まで持っていく

こちらは16話内の説明台詞についてでお話しした通り。

ザイア編までにひとまずは会社の内部分裂の心配はないことを見せ、副社長の謀反も一端終わらせ、マギア化を防ぐ対策よりもまずはザイアのAIとの対決を優先させる話運びに持っていかなくては、ノイズが多くていきなりの生け花対決には持っていけません。

この項目さえなければ、もっと実のある滅亡迅雷.netとの最終決戦になったかもしれませんが、シャイニングアサルトホッパー関連の商品展開と同様に垓の変身する新ライダーを登場を間に合わせなければならない大人の都合があったのでしょう。

 

 

さてさて、このようにして、やらなければいけないことをこなすために説明台詞が駆使され、第16話のドラマは紡がれていったわけですが、果たしてそれがゼロワンの制作チームのやりたかったことだったのかという疑問が残ります。

イズの復活する展開だって、本当にあの程度の感動シーンのために「或人じゃないと」を定期的にやり取りの〆に言わせ続けていたのかということになるんですよ。

こうやって考えていくと、第16話はイズの復活展開も含めて創作物というよりはただTo Doリストをこなしていっただけの作業ように思えてきませんか。

また、最近開示された公式のインタビューでメインプロデューサーの大森氏と脚本家の高橋氏でこのようなやりとりをしています。

 

高橋

まずは宇宙飛行士ネタをやろうというのと、今まで滅亡迅雷.net側はシンギュラリティが起きたヒューマギアの情報をどうやって仕入れていたんだっていう謎を明かしつつ、それをスパイの話に出来たら面白いのではないかと考えて、雷というキャラクターを立ち上げたんです。滅亡迅雷.netという組織の中に滅と迅がいて、だったらあとふたり〝亡と雷〟が存在するんじゃないのかというのは、我々の中で話に出ていたんです。

だったらちょっとここでやってみようかというのもありましたね。

さらに仮面ライダーゼロワン シャイニングアサルトホッパーも出るので、ヒーロー側が2回パワーアップするんだったら、敵もふたり倒す必要があるな……ということで「だったら滅も倒しちゃいます?」みたいなことを最初に言ったんです。

だけど、いざ蓋を開けてみたら、「あれ? 雷含めて3人倒しているぞ」と(笑)。

 

大森

みんな倒しちゃった(笑)。

でも、雷が1週で終わりというのは、やっぱりもったいなかったかな……。

 

高橋

あれだけ、堂々と演じてきたのにポッと出の奴にドードーゼツメライズキーを使われて……。

雷になるのは暗殺ちゃんでもよかったのかな、とは思いますけどね。

https://www.kamen-rider-official.com/columns/6

 

 

要約すると、「アサルトウルフやシャイニングホッパーの強さを教示させるために暗殺ちゃん仮面ライダー雷、滅と迅も勢いで倒してしまって後悔テヘペロ」と言ったところでしょうか。

こうやって玩具の都合でキャラを全て倒させておいて、「勿体なかったなぁー」って何様なんでしょうね。

描きたいものをありのままで描くことだけが脚本家の仕事ではないとは述べましたが、打算的に動かされたキャラクターが記号化された抽象的な性格で典型的なお決まりの台詞を吐いて、語るべきことは説明台詞で片付けて、それでキャラクターやストーリーに魅力的に感じられないのであれば、そこに同情の余地はなどなく、作り手として怠慢だったように感じます。

クライアントの都合で作る気もなかったものを作らされて、早々に「もっとやりようあったよねー」なんて、サラリーマンが飲み屋の愚痴を公の場に垂れ流すのと同じように感じてしまうのですが…。

そういう思いつきの仮面ライダー雷に龍騎のベルデのキャストをあてがうことでとりあえずの話題性は作り、物語を動していってるのがまさに今の所、ゼロワン全体を通して見られるキャスト頼りのやり口って感じですよね。

ここに来てその皺寄せ、ツケが「最近のゼロワンは面白くない」という評価で現れてしまったのは至極真っ当な結果、つまり、『コレが奴等のたわけ』なんだと私は思っています。

*1:刃は技術顧問の割に変身システムの運送業と化してるし